けいせいあわのなると
傾城阿波の鳴門
じゅんれいうたのだん
えほんたいこうき
竹薮を押しわけて光秀があらわれます。
「先程の旅の僧は久吉に間違いない」
と竹薮の竹を切って槍を作り、風呂場めがけて突き刺しましたが、中で聞こえたのは女の叫び声、光秀が刺したのは久吉ではなく、母の皐月でした。光秀の企みを見抜いていた皐月は、久吉の代わりに息子の手にかかる気でいたのです。
物音に気がついた操と初菊も駆けつけてきました。そこにいたのは、倒れた皐月と、呆然と立ち尽くす光秀。皐月は、息も絶え絶えに
「主人を殺した天罰が親に報いたのです。自分が犯した罪を思い知りなさい」
と、光秀に言い聞かせます。
しかし、光秀にすれば、主君とはいえ、悪逆の限りを尽くす春長を討ち取ったのは、天下のためなのです。ですから、皐月が死ぬ前に改心するよう頼む操の言葉にも耳を貸そうとはしません。
そこへ瀕死の重傷を負った十次郎が戦場から戻ってきます。
「最初は有利だった戦いも加藤正清の出現によって見方は全滅」
と物語る十次郎の命は風前の燈、もはや目も見えません。
父親ゆえに逆賊となった孫を不憫に思う皐月。十八年間育てた息子を失う操。祝言してすぐ夫と死に別れる初菊。それらの嘆きを聞く光秀も、とうとう涙をこらえられず、激しく涙を流すのでした。
やがて辺りが騒がしくなります。
光秀がそばの松の木に登り、周囲を見渡すと、すでに久吉の軍に取り囲まれています。必死の覚悟で逃げ出そうとする光秀。
そこへ、以前の僧の姿とはうって変わった陣羽織姿の久吉があらわれます。二人は改めて京都山崎の天王山で勝負を決めることを約束し別れるのでした。